欧州文化首都とは
8月に約1ヶ月間、欧州の都市を回る計画を立てている。これまでは西欧の主要都市ばかりにいっていたので、今度は東欧や、西欧の中でも地方都市とされる場所に行きたいと思っている。わたしは、これまでたくさんの国に行ってきたが、なぜか首都より第⒉、第3の都市が気に入ることが多い。理由は色々考えているが、後々ちゃんと言葉にできるようにしたいと思う。
地方都市をえらぶ参考として、欧州文化首都の存在を知った。ここに選ばれた都市はどんな特徴があるのか、その後はどうなったのか。できるだけたくさん訪問してレポートするつもりだ。
まずは、欧州文化首都とはなんなのか、このプログラムについて詳しく書かれている論文をまとめた。
「EUの文化政策における欧州文化首都プログラムの課題」
上智大学, 土屋朋子, 2010
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180326104818.pdf?id=ART0009369463
概要
原則として、毎年一つの開催都市を設定し、選ばれた都市が歴史や観光を宣伝するイベントをおこなう。
決め方
開催都市は事前交渉を通して決定される。原則は1都市だが、近年は2都市を選定することが多い。また、2000年はミレニアム記念として複数の都市が選ばれた。
予算
基本的に選ばれた都市が属する政府からの予算を中心に、欧州構造基金(ESF)、欧州地域開発基金(ERDF)によって出資されている。
EUの文化政策
1980年以降、将来の政治的・社会的統合を深化させるうえで、共通アイデンティティを喚起させることを重要課題と位置づけ、EUの文化政策が始まった。特にEUが重視していることとして、「多様性の中の統合」の理念がある。これはEU域内の緩やかな歴史的・文化的共通性と多様性を同時追求するもの。当プログラムもまた、この理念を重視している。
東欧のEU加盟 開催意義の変化
冷戦の終焉に伴い、東欧諸国がEUに加盟することとなった。2004年のEU第五次拡大を前に、当プログラムは加盟国を受け入れるための文化交流の場として注目された。
3つの特徴
⒈ まちおこしと観光客誘致
⒉ 地域文化の尊重
⒊ 市民の連帯意識の向上と政治参加を促す
2つの利点
⒈ 開催都市に強力なブランドイメージを与え、観光のインセンティブとなる
⒉ 都市のイメージ向上
3つの課題
⒈ 開催後の効果の持続が難しい
⒉ EUのリーダシップ不足(理念、経済支援など)
⒊ 「多様性のなかの統合」の理念があいまい
2-1. 経済的支援の不足
EUからの助成金の少なさゆえに、予算は開催都市の資金力に負うところが大きい。援助が不十分だと指摘されている。
2-2. ヨーロッパ性の定義
具体的な文化的共通点や「一つのヨーロッパ」というイメージが発信できずにいる。これは先に述べたEUの文化政策の理念が非常に抽象的で、具体的な共通点の言及がされていないことが主たる理由だとされる。
以上、欧州文化首都について、ブルガリア・ソフィア大学の土屋朋子氏の論文をまとめた。最後に指摘されているヨーロッパ性の定義について、別の研究者は、”ヨーロッパに対する帰属意識は地域における帰属意識と補完関係にあるため、両義性が意味をもつ”、との主張があるそうで、それゆえあえて定義する必要はないという。確かに、数学的な「集合」の論理では、まあ、まちがってはいない。
けれども、昨今の右傾化するEU諸国を見ていると、国や地域に対する帰属意識が、逆に排外的な力にすり替わっているようにも思う。文化政策は、物理的な統合とは違い、人びとの「心」の統合を目指すものだと私は解釈している。今後の欧州文化首都の開催都市には、ぜひ「ヨーロッパ性」を深く議論し、平和なEUを維持する基盤をつくってほしい。